白百合の人生漂流記

徒然に百合や法律学(法解釈学)の勉強、個人的な興味関心事項について備忘録的に語ります。

債権総論-損害賠償請求権(効果論)

1.損害の定義についての対立

・差額説(実務における通説)

損害=「加害行為がなかったとしたら被害者が置かれたであろう利益状態と、加害行為がされたために被害者が置かれている利益状態の『差』を『金額』で表現したもの』

個別損害項目積上げ方式による損害の算定

(積極的損害のみならず、消極的損害があることに留意せよ。)

 

・損害事実説

損害事実の認定と金額の判断は異質なものであり、差額説はそれを混同しているという批判に立脚。

損害=「債権者に生じた不利益な事実」

 

・潮見説(契約利益説)

差額説=金額の評価と損害の評価の混同

損害事実説=不利益な事実の範囲の確定が損害概念にあらわれない。

 

契約利益の価値的実現として、価値代替物としての損害賠償を認める。

=契約上の地位の金銭的価値を保証

 

事実状態と仮定的事実状態との差(金額ではなく事実状態)によって損害を評価。

 

事実状態と仮定的事実状態を規範的評価を介して比較

→個別客体損害と総体財産損害がある。

 

損害計算は具体的損害計算→抽象的損害計算の順に解釈を行う。ここで分水嶺となるのは、「契約上の地位」の立証である。

 

なお、この時、損害賠償における損害と債務不履行との間の因果関係は、損害判断の中に組み込まれる。なぜならば、事実状態と仮定的事実上との差をとる時、そこには規範的評価を介在させており、賠償範囲の問題というのは、何が損害に当たるのかという問題に帰着されるからである。

 

2.契約利益の実現について

日本では履行利益(積極的利益)の賠償が認められる。

(契約に対しての信頼利益(消極的利益)が、保証されるわけではない。すなわち、契約に対して投下した費用の回収を損害賠償として求めることはできない。)

履行利益=契約上の債務が完全に履行されることによって、債権者が受ける利益

e.g.)・契約対象の交換価値(利用価値、使用価値が通常内包される。)

・転売利益

 ・代替取引に要した費用

・第三者に対して支払った違約金・損害賠償

・目的物の修補に要した費用。

 

拡大損害については2通りの構成方法がある。

第一に、給付義務違反を根拠として416条第2項の問題として処理する構成

第二に、保護義務違反を根拠として構成する方法である。(すなわち完全性利益の侵害の方向で構成する方法)保護義務の有無を判断した上で、416条が適用されるか考慮する。

 

3.416条について

1項=通常損害

2項=特別損害

 

・相当因果関係論

完全賠償を原則=因果関係のあるすべての損害を賠償すべきという立場

416条は相当因果関係を定めたものであると理解する。第1項は相当因果関係の原則を示したものであり、第2項は基礎とすべき特別事情の範囲を示している。

因果関係の起点は債務者の故意・過失行為。終点は損害。

 

・保護範囲論

そもそも日本では完全賠償を取らない。制限賠償(責任原因によって制限)が基本。

因果関係とは事実の復元にとどまるという理解=事実的因果関係

相当因果関係は相当因果関係判断の中に異質な判断を複数含む。本来、損害の確定を行うためには、(1)事実的因果関係の判断、(2)契約の保護範囲に入るか判断が必要。また、相当因果関係判断は損害額の算定も行うが、これは、保護範囲の確定には入らず、損害の金銭的評価という別枠組みで行われるべきものである。

制限賠償の原則→契約規範により保護される契約利益に対する侵害を原因とする損害のうち、債務者にリスクを分配するものに限って損害賠償を求めるべき。

債務者が負担すべきリスクは契約規範の目的から個別的に考察される。

リスク分担の根拠を契約上の合意に求める。

 

予見可能性の捉え方について

相当因果関係論→予見可能性は相当因果関係の判断の中に取り込まれる。通常想定できる「事情」は当然考慮されるが、予見の対象は特別の「事情」となる。予見可能性は債務者の予見可能性であり、債務不履行時の予見可能性が考慮される。(刑法とパラレルに考えるとわかりやすいか。)

保護範囲論→契約締結時に両当事者が予見できた「損害」リスクのみが契約に組み込まれるべき。両当事者の合意を起点とする損害リスクの分配を決定的なものと見た上で、両当事者の契約当時における損害の予見可能性に基礎を置く。これは、契約がリスク分配を定めるとした上で、契約時に定められていないリスクに関しては、債務者には分配できないと理解したものである。

潮見説→基本は、損害のリスク分配を考慮するという点で、保護範囲論の立場に立つが、契約締結後も債務者側の損害回避義務(1条2項)を捉えて、予見可能性の判断を債務不履時とするのが良い。