民事訴訟法-処分権主義、訴え、訴訟上の請求
・処分権主義
訴訟の開始、審判の対象・範囲、判決によらない訴訟の終了に関する決定を当事者に委ねる考え方。
→私的自治からの要請
訴えなければ裁判なし=不告不理の原則
訴訟要件を満たさないときは本件判決をせずに訴訟判決(訴え却下判決)を出せる。
訴え却下判決の申立てがなくても却下判決を出せるか。
=積極
理由:請求には訴えの適法性についても審判を求めていると解する。
請求の範囲内での判決を出す。
e.g.)1000万円の損賠請求で2000万円の損賠を認めることはできない。
なお、上例では、一部認容判決として500万円の請求を認めることができる。
・訴え
ある者が、裁判所に対して、他の者に対する特定の権利または法律関係の主張を提示し、これに基づいて一定の内容及び形式の判決を求める申立てのことを指す。
請求の理解については2レベル存在する。
狭義の請求=原告の被告に対する特定の権利主張
広義の請求=狭義の請求に加えて、一定の内容及び形式の判決の要求を含むもの。
訴えと請求の関係についてそれぞれの場合どうなるか。考えてみればわかる。
訴えの種類=給付の訴え・確認の訴え・形成の訴え
それぞれ請求認容/請求棄却された場合の判決効について考えよ。
(既判力と執行力と形成力)
請求・訴訟物→請求の同一性・単独性を捉える際の基準
請求の特定:民訴133条2項2号に定められる。
e.g.)建物の明渡し請求→請求の趣旨=建物の明渡し は明白だが、様々な法律上の原因が考えられる。
金銭債務不存在確認訴訟のように、債務額が訴状において明示されなければ、防禦活動を決定できないということはないものは、債務額の明示がなくても不適法とまでは言えない。
訴訟物理論
実体法説(実体法上の権利を訴訟物とする考え方)/訴訟法説→一分肢説(一定の裁判要求が訴訟物であるとする考え方)/二分肢説(裁判要求のみならず、事実関係の同一性によって訴訟物を枠づける考え方)
旧訴訟物理論vs新訴訟物理論
紛争の一回的解決の強調(ゆえに二分肢説はあまり支持されない。)
旧訴訟物理論への批判:紛争の蒸し返し→同一の請求(e.g.500万円払え。)に対して、例えば不法行為による損賠と債務不履行による損賠を請求しうるが、片方が否認されたからといってもう片方を主張して訴訟するのは不経済では?
二重の認容判決
選択的併合を認めれば既存の問題を処理可能では?
→もちろん処分権主義に服する。
新訴訟物理論への批判:裁判所の釈明義務の拡大→裁判所が全ての請求権・要件事実について釈明する義務を負うリスク
請求権の実体法上の性質が不明確なこと(不法行為と債務不履行では受働債権とする相殺の許否が変わるので、まずい)
=一回的な解決の限界
確認訴訟の訴訟物
実体法上の権利が1個の訴訟物を構成する。
なお、利用権は訴訟物とならない。
理由:所有権か賃借権かなど実体法上の権利が特定されて初めてimpを持つ。
訴訟物である実体法上の権利義務関係その他の法律原因が請求の趣旨で特定されていることが必要
形成訴訟の訴訟物
旧訴訟物理論:形成権の原因の区別を要する。
新訴訟物理論:形成権の原因の区別を要しない。
訴え提起のプロセス
→訴状の必要的記載事項を記載した上で、訴状を裁判所へ送付(民訴133)
→裁判長の訴状審査に服する(民訴137条1項・138条2項)
→訴状の被告への送達(民訴138)
→訴訟係属の発生(民訴147)
裁判所
合議制/単独制
裁判長→合議体の代表者としての権限+裁判長が合議体から独立して行使する権限
受命裁判官=法定事項の処理を構成員である一部の裁判官に委任できるが、その委任を受けた裁判官のこと。
受託裁判官=他の裁判所に法廷の処理を嘱託することができるが、その処理を担当する裁判官
管轄の問題
管轄の発生根拠は法定管轄・指定管轄・合意管轄・応訴管轄の4つ。
法定管轄
法律の規定によって直ちに特定の裁判所に管轄が発生
指定管轄
民訴10条によって発生する管轄
合意管轄
当事者の合意によって生じる管轄(民訴11条)
合意が付加的管轄合意か専属的管轄合意かは争いとなりうるが、裁判所は当事者の衡平の観点から、17条に基づいて移送できるし、これは仮に専属的管轄合意がなされていても妥当する。(20条1項括弧書き)
応訴管轄
原告が訴えを提起した裁判所について、被告が管轄違いの抗弁を提出しないで本案につい弁論をし、または、弁論準備手続での申述をした場合に、その裁判所が管轄権を有することになる。(12条)
任意管轄と専属管轄
専属管轄の違反は、控訴の理由となり、絶対的上告理由にもなる。
法定管轄の分類
職分管轄→各種の事件に対する裁判権の作用をどの裁判所の役割とするかの定め
事物管轄→主に第一審裁判所を地方裁と簡易裁といずれにするか定める。訴額が140万円以下かどうか。任意管轄である。
土地管轄→裁判籍という考え。普通裁判籍(4条)特別裁判籍(独立裁判籍と関連裁判籍とに分けられる。前者の根拠条文は5条、6条、6条の2。後者の根拠条文は7条)複数の被告に対する請求のとき、38条前段の場合は併合請求の裁判籍を肯定し、38条公団の場合は併合請求の裁判籍を否定する。
管轄の基準時は訴えの提起の時
移送
管轄違いの移送(16条)
遅滞を避ける移送(17条)
簡易裁から地方裁への裁量的移送(18条)
必要的移送(19条)
移送の裁判(21条、22条1項、2項)
除斥・忌避・回避
除斥=23条1項各号によって裁判官が法律上当然に職務を執行できなくなること
忌避=23条1項以外の自由によって裁判の公正性が損なわれそうな場合に、当事者の申し立てに基づき、裁判によって裁判官を職務執行から排除すること。
24条1項
回避
当事者概念
自らの名で訴えまたは訴えられることによって、判決の名宛人となる者=形式的当事者概念
訴訟物である権利義務関係の主体を当事者と捉える=実体的当事者概念
二当事者対立構造
当事者は名宛人となるが、判決の適正さを確保するとともに、判決までの手続きを公平・合理的なものにするために権利・義務負担を課す。
当事者権→各種の申立権、訴訟代理人の選任権etc
特に大事なのは弁論権→裁判の基礎となる資料を提出する権利
義務負担→各種機関の遵守や訴訟費用の負担etc
当事者の確定
伝統的に3つの当事者確定のための基準が唱えられた。
意思説/行動説/表示説 (実質的表示説が通説)
問題となるのは、病理事例
e.g.)AがXの名前を騙って原告として訴えを提起したり、BがYの名前を騙って被告応訴する場合
手続きの段階ごとに考える必要性
1.訴状を受理した段階→誰を当事者として訴訟手続きを進めるのかという問題。訴状の記載によって当事者確定が妥当か。
理由:処分権主義が妥当するところ、通常、被告もしくは裁判所は訴状以外に原告の意思を判断する資料がない。
2.手続きがある程度進行した段階→誰を当事者として進めるかに加えて、従前の手続きの有効性が問題となる。(手続を真の当事者に対してやり直すか、それまで手続きに関与してきたものを改めて当事者の地位につかせて従前の手続きを維持するか。)
3.判決が確定した後の段階→誰に対して当該判決の効力が及ぶのか。
規範分類説→1.の段階には行為規範が問題となり、表示説に従う。
2.3.の場合には評価規範の考慮が重視されるので、行動説的な処理をする。
実質的表示説の場合は、任意的当事者変更や判決効の拡張などによって、当事者概念に結びつけられる効果を調整することで、処理する。
任意的当事者変更
表示の訂正→訴状等におけるAを同一人格たるBに変更する。
任意的当事者変更→AとBは同一人格ではない。
任意的当事者変更の法的構成→通説:新当事者による、または新当事者に対する新たな訴えの提起+旧当事者による、または旧当事者に対する訴えの取下げ